小児科 気管支喘息
気管支喘息について
気管支は気管の先で左右に分かれて肺につながっている部分です。気管支喘息では、気管支が狭くなって空気が通りにくくなる喘息発作を繰り返し起こします。特徴的な症状として、ゼイゼイ・ヒューヒューという音が出る喘鳴があります。また、夜中や朝方に発作を起こすことが多くなっています。ただし喘鳴なのか風邪などのひどい咳なのかがわかりにくい場合もありますし、喘鳴は気管支喘息以外の疾患でも起こることがあります。風邪ではない場合も喘鳴が出る、運動や興奮した際に咳き込む、本人や家族にアレルギー疾患がある、アレルゲンに触れると発症するなどを確認した上で慎重に診断します。なお、幼いお子様の場合には、咳き込んで吐くことがある、横にしようとするとぐずるといった症状を起こすだけの場合もあり、症状だけでは気管支喘息であることがわかりにくい場合があるため注意が必要です。気管支喘息は呼吸困難を起こすこともありますので、喘鳴がある、咳が続く場合には早めに受診してください。
喘息発作の強度
発作を起こしている時の強さを、発作の強度として分けています。小発作は、聴診器を当てるとゼイゼイ・ヒューヒューという音が聞こえますが日常生活に支障がほとんどない状態です。中発作は、夜間に発作で起きてしまうことがある、息苦しくて横になれない、会話がやや困難などがある状態です。大発作は、動けず、会話が困難で、重篤になって呼吸困難・チアノーゼ・意識がもうろうとしてしまった場合には、速やかな救急受診が必要です。なお、小発作・中発作は血中酸素飽和度なども測った上で総合的に判断します。
喘息発作
気管支がむくむ、気管支の周囲にある筋肉が収縮する、痰が増えるなどが同時に生じて空気の通り道が狭くなり、ゼイゼイ・ヒューヒューという喘息発作を起こします。適切な薬を使用することで気管支が広がると呼吸が楽にできるようになります。以前は、こうした発作時の対処だけを行っていましたが、現在は気管支喘息の原因がアレルギーなどによる炎症によって生じていることがわかってきて、炎症を鎮める治療を継続して行うことで発作を起こさないようにする治療が行われるようになっています。炎症が長期間続くと気管が過敏になって発作を起こしやすくなり、悪化リスクが上昇するため、炎症を抑える治療は重要です。また、子どもの呼吸器は成長段階にあるため、できるだけ発作を起こさないようにして炎症を鎮めることで将来の肺機能を守ることにもつながります。
喘息の重症度
重症度は、治療による喘息のコントロ-ル状態を知るために使う基準です。症状の頻度・強度、夜間症状の有無や内容に加え、呼吸機能検査の結果をもとに判断します。治療前の重症度は、間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型に分類されます。
重症度 | 軽症間欠型 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 | |
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喘息症状の特徴 | 頻度 | 週1回未満 | 週1回以上だが毎日ではない | 毎日 | 毎日 |
強度 | 症状は軽度で短い | 月1回以上日常生活や睡眠が妨げられる | 週1回以上日常生活や睡眠が妨げられる | 日常生活に制限 | |
しばしば憎悪 | しばしば憎悪 | ||||
夜間症状 | 月に2回未満 | 月に2回以上 | 週1回以上 | しばしば | |
PEF FEV1 | %FEV1、%PEF | 80%以上 | 80%以上 | 60%以上80%未満 | 60%未満 |
変動 | 20%未満 | 20~30% | 30%を超える | 30%を超える |
喘息が悪化する要因
小児の気管支喘息は、約90%にアレルギー体質があるとされています。特に多いのはダニアレルギーです。ほこりが多い場所で咳が止まらなくなる場合や、喘鳴を起こすのはダニをはじめとするハウスダストのアレルギーが強く疑われます。ただし、喘息のきっかけにはほかにもさまざまなものがありますし、アレルゲンだけでなく運動などをきっかけに喘息発作を起こすこともあります。喘息発作を生じさせる誘因を知って、お子様がどんなきっかけで発作を起こすのかを知ることができれば、適切な対策を行うことで発症リスクを抑えることにつながります。
アレルゲン
アレルギー反応を起こす物質のことです。アレルゲンは多岐に渡りますが、主要なアレルゲンは血液検査や皮膚検査で簡単に調べることができます。環境アレルゲンであるハウスダスト、ダニ、ペットの毛やフケ、カビなどが原因で発作を起こす場合には、こまめな掃除で発症を減らすことができます。
感染症
風邪などのウイルス感染によって気道が炎症し、それによって喘息発作を起こすことがあります。また、風邪が治ってから咳が続く咳喘息を放置していると、気管支喘息に移行する可能性が高くなります。
運動
気道は敏感で温度差も大きな刺激になります。運動では呼吸が速くなり乾燥した冷たい空気が気道に入ってくるため、それが刺激となって起こるのが運動誘発喘息です。症状が重い場合には軽い運動で誘発されますし、喘息の状態が軽度の場合はマラソンなどの呼吸器官に長時間負担がかかる運動で発作を起こします。空気が乾燥して冷たい冬期には特に発作が起きやすくなっています。運動時に軽い発作が起きても、しばらく休むと改善するため自覚していないこともありますので、問診でしっかり確かめる必要があります。運動誘発喘息があると全ての運動ができないというわけではなく、予防の治療をしっかり行うことでコントロールできれば状態に応じて可能な運動が増えていきます。
気象条件
温度や湿度、気圧の変化も発作の起きやすさに影響します。朝夕や毎日の気温・湿度の変化が大きい季節の変わり目、台風などの極端な低気圧などが発作を起こす誘因になることがあります。
大気汚染
PM2.5や黄砂などの大気汚染物質の刺激で喘息発作を起こすことがあります。また、タバコの煙には有害物質が何種類も含まれています。外で喫煙した場合も、肺に煙がしばらく残るため安全ではありません。できるだけ禁煙してください。線香、蚊取り線香、花火の煙なども喘息発作を起こす可能性があります。
ストレス、疲労、睡眠不足
疲れや寝不足など身体的なストレスや心理的なストレスも喘息発作に影響します。
気管支喘息の治療方法
気管支喘息の治療では、4つの治療ステップがあります。症状や診察などからどの治療ステップが最適な治療かを決定します。
喘息の治療では、『発作を行ないように予防する薬』と『発作が起こった際に抑える薬』があります。
治療ステップ1 | 治療ステップ2 | 治療ステップ3 | 治療ステップ4 | ||
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長期管理薬 | 基本治療 | ICS(低用量) | ICS(低~中用量) | ICS(中~高用量) | ICS(高用量) |
上記が使用できない場合 以下のいずれかを用いる LTRA テオフィリン徐放製剤 ※症状が稀なら必要なし |
上記で不十分な場合に 以下のいずれか1剤を併用 LABA (配合剤使用可) LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤 |
上記に下記のいずれか1剤 あるいは複数を併用 LABA (配合剤使用可} LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤 |
上記に下記の複数を併用 LABA (配合剤使用可) LAMA LTRA テオフィリン徐放製剤 抗lgE抗体 抗IL-5抗体 抗lL-5Rα抗体 経ロステロイド薬 気管支熱形成術 |
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追加治療 | LTRA以外の抗アレルギー薬 | ||||
発作治療 | SABA | SABA | SABA | SABA |
- ICS:吸入ステロイド薬
- LABA:長時間作用性β2刺激薬
- LAMA:長時間作用性抗コリン薬
- LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬
- SABA:短時間作用性β2刺激薬
ステロイド吸入薬
アレルギーによる炎症を直接抑える高い効果を持っています。種類も多く、年齢などに合わせたきめ細かい処方が可能です。飲み薬や点滴と違い、ステロイドですが医師の指示通りに用いることで副作用の問題もほとんど起こしません。睡眠障害や食欲不振など成長に悪影響を及ぼす症状がある場合や、学校生活などに支障が出てくる場合には、ステロイド吸入薬を使って炎症をまず鎮め、慎重に経過を観察することが重要です。
治療の経過について
コントロールが上手にできて発作を起こさなくなっても、気管支の炎症が完全におさまるまでには時間がかかります。3ヶ月から半年程度発作を抑えることができれば薬を減らして経過観察できますが、それでも地道に治療を続けていく必要があります。年齢や症状などで、治療をいつまで続けるのかが決まりますので、根気よく治療を行う必要があります。。ご不安やお困りの点がありましたら、なんでも気軽にご相談ください。
コントロール良好 (すぺての項目が該当) |
コントロール不十分 (いずれかの項目が該当) |
コントロール不十分 | |
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喘息症状 (日中および夜間) |
なし | 適1回以上 | コントロール不十分の項目が 3つ以上当てはまる |
発作治療薬の使用 | なし | 適1回以上 | |
運動を含む活動制限 | なし | あり | |
呼吸機能 (FEV、およびPEF) |
予測値あるいは 自己最良値の80%以上 |
予測値あるいは 自己最良値の80%未満 |
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PEFの日(週)内変動 | 20%未満 | 20%以上 | |
憎悪 (予定外受診、救急受診、入院) |
なし | 年に1回以上 | 月に1回以上 |
喘息のコントロールが良好で3~6カ月間継続できるようであれば、治療ステップのランクダウンを医師と相談しながら決定していきます。
気管支喘息治療のガイドライン
疾患の治療は、専門の学会が作成した治療ガイドラインに沿って行うのが基本です。
小児気管支喘息にも、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン』があり、当院ではそれに沿って治療を行っています。